正当でない人が遺産を受け継いでしまったとき、法定相続人や被相続人の包括継承者は、
これに対して遺産を返すように請求することができます。
正当でない人のことを表見相続人といって、被相続人を殺害したり遺言状を偽造したり、
詐欺や脅迫で遺言状を書かせたりした人はもちろん、
虚偽の出生届や認知届で子になったり、被相続人から戸籍の上で排除されていたり、
無効な養子縁組で養子になった人なども含みます。
正当な相続人の権利を回復するために、このような相続回復請求権が規定されています。
さらに法定相続人同士の間でも、
一人が他の法定相続人の分まで遺産を横取りしているときは、
同様に相続回復請求権が発生します。
兄弟姉妹など法定相続人の中で、
自分だけが遺産をもらえなかったような場合に使える可能性があります。
この権利は相手方に直接請求することもできますが、
一般には裁判を行なって権利を回復します。
このときは財産を侵害された本人が請求権者となり、
親族など利害関係者は請求できません。
相続回復請求権には消滅時効があります。
表見相続人が権利を侵害していることを知ってから、5年で請求権は消滅します。
また侵害の事実を知らなかったとしても、
相続開始から20年で消滅するので注意が必要です。
ただしこの時効は侵害者の善意無過失を要件としています。
すなわち侵害者が侵害しているという事実を知らず、
そのことについて過失もなかったときのみ適用されます。
もし侵害者に悪意があって、侵害の事実を知っているのに黙っていた場合や、
重大な過失によって事実を知らなかった場合には、
請求者の権利は消滅しないと解されています。
ですからわざと遺産を独り占めしているような相手には、
何年経過していても返還を請求できるわけです。
しかし権利の上に眠るものを法律は保護しないという原則があります。
侵害者が善意無過失のまま期間が過ぎてしまうこともあり得るので、
自分の取り分が正当でないという疑いがあるなら、厳しいチェックが欠かせません。