TOP > 相続問題の基礎知識 > 共同相続人の占有による時効取得
不動産の相続は、相談が多い問題の1つです。
現金のように物理的に分けることができないため、名義が故人1人であっても、
相続人が複数いれば問題が起きやすい財産です。
今回は相続財産である不動産が故人の単独名義で、相続人が故人の子供である兄弟2人、
そのうち兄だけが故人と長く同居していた、というケースを例に問題点を探ります。
遺言書がない限り、兄弟が半分ずつ遺産を相続します。
他にこれといった遺産がなく、不動産のみという場合、
売却益を折半するのが一番分かりやすい方法です。
しかし兄が引き続きこの家に住み続けたいという場合は、
弟に半分所有権がある住居に住み続けることになります。
話し合いで弟の権利を買い取る、もしくは譲ってもらう、あるいは賃料を払う、
ということになります。
もちろん弟が無償で住み続けても良いといえば、名義は半分ずつのままで、
兄だけが住み続けることも可能です。
問題は、弟がすぐにでも家を売って現金を手に入れたいと思っているのに対し、
兄が持ち分を買い取るだけの現金を持ち合わせていない時です。
弟にも権利がある住居を兄が占有する状態になります。
こうなると、泥沼の争いに発展してもおかしくありません。
占有による時効取得という概念を耳にした人もいることでしょう。
住み続けることで取得時効が完成し、所有権を得られる、というものです。
住居は人が平穏な生活をするのに不可欠なものであるため、
突然追い出されたりすることがないよう、
不動産に関しては住んでいる人に一定の権利が認められています。
そのひとつが取得時効の完成です。
不動産の占有期間が10年、または20年で取得時効が完成しますが、
条件として所有の意思による占有でなければなりません。
これを自主占有といいます。
父親が亡くなった時点で、兄弟との共有財産になったことを兄は当然知っていますので、
兄はその先何年住んでも基本的に時効を取得することはできません。
しかし例外的に認められることもあります。
父親から生前贈与を受けたと信じていた場合など、
客観的にみて単独所有の意思に基づく占有であると認められる場合です。
父親が亡くなってから兄弟で遺産分割協議を行っておらず、
父親名義のままで数十年放置していたような場合には、
自主占有が認められる余地があります。