契約というものは、契約書がなくてもちゃんと成立するものなのですが、
とはいっても、実際には確かにその契約が成立している、
ということを客観的に証明できなければなりません。
従って、もしもその媒介契約書の作成・調印なしで、
不動産売買の媒介契約を結んでいた業者が、買主から不動産業者を抜きにして、
媒介した契約物件を売主との直接の商談で購入されてしまった場合であっても、
その媒介報酬たる仲介手数料を買主に請求することができるのです。
ただし、そうした場合には、たとえ媒介契約書は存在していなくても、
不動産業者は、媒介契約の申込書などで、
媒介依頼があったことを立証できる必要があるわけです。
裁判判例でも、民法第130条(条件成就妨害の法理)、
もしくは商法第512条(商人の行為の有償性)に拠って、
こうした場合にも、不動産業者は買主に対して媒介手数料を請求することができる、
としています。
従って、その媒介契約書の作成・調印の有無には関係なく、
買主との間に媒介契約が成立していることを、不動産業者が立証できるか否かが、
その決め手になるということになるわけです。
このように不動産業者がその買主と媒介契約を結んでいた場合には、
媒介契約書の作成・調印の有無には関係なく、契約は成立していることになるため、
業者は買主に手数料請求ができるのですが、
そのためには契約の成立を立証できるかどうかが決め手となってきます。
不動産売買の媒介契約の中には、
依頼人の自己発見取引を認めているものもあるのですが、
これはあくまでも業者の媒介を通さない自己発見による商談を認める、
ということですから、業者の媒介によって成立した商談についても、
手数料を支払う必要がないということではありません。
そもそもが、業者の媒介によって成立した売買であっても、その契約書がなければ、
依頼人は業者に媒介手数料を払う必要がない、ということが認められるとしたら、
業者は全くのただ働きをさせられる、ということになってしまいます。
これでは物件取引の媒介を行う不動産業というもの自体が成り立たない、
ということになってしまうのです。